大手も変わる。小さな店にも道がある
いま、売場で起きている変化を見てみましょう。トライアルホールディングスは、2025年に「トライアル西友 花小金井店」を開き、会計機能と購買履歴に応じた商品提案を備える「Skip Cart」を導入しました。買物の体験と売場のデータをつなぐ試みです[資料1]。
私は、こうした仕組みから学ぶべきことは、機械の大きさではないと思います。お客さまが何を手に取り、どこで迷い、何を買わずに帰ったのか。現場で問いを立て、数字と会話を行き来する姿勢です。
大手には技術と投資力があります。小さな店には、お客さまの一言を聞いて、翌朝の品揃えを変えられる速さがあります。規模の違いにひるむ必要はありません。まずは、自分の売場で何が選ばれているかを確かめることから始めましょう。
ビジネスに携わる人々の悪い習慣
日本のチェーンストアの育ての親である渥美俊一先生は、日本のビジネスのよき習慣として、次の7つを挙げました。
- 売ること、ついで儲ける習慣
- 実態を数字でつかむ習慣
- 確実に純益高を確保する習慣
- 自己満足と自己限界を克服する習慣
- 手順・手続きを大事にする習慣
- 学び方を変える習慣
- つねに未来を見つめる習慣
では、反対に悪しき視点とそれをもたらす習慣とは何でしょうか。
それを私なりに考えてみました。
【なぜ、顧客が来ないのか】
- 売れる商品がわからない
- 見当はずれの販促方法
- 客単価と客数を同時にアップさせるノウハウがない
- 大手企業が強いという思い込みや錯覚
- 格好だけの店舗改装・リニューアル
- 商店街活性化のための間違った努力
- 高額なシステムを活用できない
以上の7つを言い換えると、次のようになります。
- 売れる商品がわからない
→売れる商品がわかるしくみ(=習慣)ができていない - 見当はずれの販促方法
→販売を科学的に行なうしくみ(=習慣)がない
- 客単価と客数を同時にアップさせるノウハウがない
→客数をアップさせるノウハウだけがあり、客単価も同時にアップさせるという考え方がない - 大手企業が強いという思い込みや錯覚
→小さいことの利点を活かそうとする考え方がない - 格好だけの店舗改装・リニューアル
→店舗改装を科学的に行なうしくみ(=習慣)がない - 商店街活性化のための間違った努力
→商店街をよくするための方向性(=習慣)がない - 高額なシステムを活用できない
→人間の行動習慣のほうが重要なことに気づいていない
以下、7つの点について、どのように改善すればいいかという点を提案します。
1. 売れる商品がわからない → 簡単にわかる方法がある
「ビジネスに携わる人々が、売れる商品をわかっていない」
まさかと思われるかもしれませんが、ビジネスに携わる人々の実態を表した言葉です。
そうでなければ、「自分が売りたいものはわかる。しかし、売れるものはわからない」と言い換えてもいいでしょう。
食品売場には、数多くの商品があります。けれど「品揃えにある」ことと「お客さまに選ばれている」ことは同じではありません。
たとえば、ある店に一日500人が来店し、トマトが100点、ブロッコリーが25点、季節の果物が10点売れたとします。PI値はそれぞれ20%、5%、2%です。これは説明用の仮定で、全国の食品売場の平均ではありません。
大切なのは、同じ売場で同じ数え方を続け、よく選ばれる商品と、まだ伝わっていない商品の差を見ることです。購入者が一人で二点買えば、PI値はその二点を数えます。購入した人の割合と混同してはいけません。
PI値の高い商品には、売場を支える力があります。ただし、単品の基準値を一律に10%や1%と決めつけることはできません。業態、部門、季節、時間帯によって比較の物差しを合わせます。
入口をつくる商品を「フロントエンド」、より深い選択を支える商品を「バックエンド」として考えてみましょう。実店舗ではレジ通過客数、ネット販売では閲覧や注文の母数を明記し、それぞれ別の指標として扱います。アクセス数を来店客数と同じ意味で混ぜないことが肝心です。
2. 見当はずれの販促方法 → 客単価と客数を同時にアップさせる
よくお店の前に、「大売出し」の紅白の旗を見受けますよね。
しかし本来、小売業のよさは、大売ではなく小売なので、「小売出し」の旗のほうがよいはずです(ただし、私はお店の前に旗を立てることをおすすめしません)。
私たちエブリデイ・マーケット業界の例でいうと、スーパーマーケットでは、ふつう買い物カゴのなかに一人当たり10品前後が入ります。金額にすれば、2000円前後になります。
野菜ビジネスでは、買い物カゴのなかに5点前後の野菜や果物が入ります。金額にして平均600円くらいになります。
この客単価(顧客一人当たりの買上げ金額)に来店した客数(レジ通過客数)を掛けたものが「売上」です。
売上=客単価×客数(レジ通過客数)
この売上からコストを引いたものが営業利益になります。
商売をやっている人なら基本中の基本で、ビジネスはとてもシンプルにできています。
つまり、「小さな客単価」がビジネスの土台なのです。
小さな金額の積み重ねですから、大売出しの旗は似合いませんね。
3. 客単価と客数を同時に考える → 商品構成と買いやすさを整える
集客だけを追うと、来店しても買いにくい売場が残ります。値上げだけで客単価を追うと、購入点数や再来店が減ることもあります。
本書では、売上=客数×客単価を出発点に、PI値、平均単価、粗利益をあわせて見ます。品揃えや陳列、提案を改善し、お客さまが納得して選べる機会を増やす。客数と客単価の両方を育てる道は、そこから開けます。成果は保証ではなく、自店の数字で確かめるものです。
4. 大手が強いという思い込み → 自店の役割を磨く
大型店、専門店、ネットスーパー。お客さまは生活の場面に応じて買う場所を選びます。大手には物流、価格、品揃え、デジタル投資の力があり、小さな店には地域の食卓を知り、季節と一人ひとりに合わせて動ける力があります。
どちらにも人件費、物流費、光熱費、廃棄、システム費用がかかります。国や企業の経費率を古い数字で一律に比べても、いまの経営判断には使えません。自店では、売上高と粗利益額だけでなく、商品別・時間帯別の粗利益、ロス、作業時間を見てください。
一つの商品を安く売るなら、その商品を選ぶお客さまが増え、買物全体の粗利益がどう変わるかまで見る。値付けの強さと、届ける価値の強さは、両方必要です。
大きい会社を見てひけ目を感じる前に、自分の店でしかできない一つを見つけましょう。
5. 格好だけの店舗改装・リニューアル → 科学的な店舗改装は費用対効果を考える
お店のリニューアルオープン・店舗改装が盛んです。
什器や制服を新しくしても、選ばれる商品が伝わらなければ成果は限られます。改装の前に、買いやすさ、入口の商品、奥で見つける商品を見直しましょう。
私は、外面的なリニューアルオープンより、「ロータス・メソッド」のソフトを取り入れたフレッシュオープンをこころがけています。
物を売る基本は、商品を戸板に並べることから始まりました。
その戸板に商品を載せて、フロントエンド商品とバックエンド商品の顧客支持率を上げるしか、売上をアップする方法はありません。
最初に自己イメージを変え、「ロータス・メソッド」のソフトを組み込み、そのうえでハードを変更すると店舗改装は成功します。これが本当の意味でのリニューアルです。
だいたい、リニューアルというのは、顧客にはわかりにくい言葉です。
中途半端な店舗改装は、逆に「売れないから改装するのかな?」と顧客に不安を与えるのがオチです。
6. 商店街活性化のための間違った努力 → ハードよりソフトパワーを活用する
商店街では、ポイント、イベント、地域の情報発信など、さまざまな工夫が行われています。
しかし、そもそも販売促進とは、アーケードの改装や旅行・スポーツ観戦のご招待、娯楽施設を作ることではありません。
ずばり、商店街の活性化は、「フロントエンド商品の強化」以外に突破口はないのです。
先ほど物を売る基本は商品を並べる戸板にあると述べましたが、その戸板は、横180cm、縦90cmと決まっています。
戸板の横幅180cmは、顧客が視線に入れることのできる範囲です。
そして縦幅の90cmとは、並べられた商品に顧客の手が届く範囲です。
この戸板1枚、180cm×90cmに、あなたのお店で顧客から支持率の高い商品を並べてほしいのです。
店頭の戸板(フロントエンド商品)に1〜3品以内で、あなた自身の考えるベストな商品や、ベターな商品を並べてください。
あなたが売りたい商品でなく、あくまで顧客の側から見て一番支持される商品ですよ。
私のエブリデイ・マーケットのビジネスですと、たとえば顧客が100人来店して10個以上売れる商品ということになるので、これはデータからすぐにわかります。
どの品目が一位かは、全国共通とは限りません。自店の牛乳、トマト、季節の果物などを実際に比べてみてください。
あなたがビジネスを手がける際、お客さまから一番声がかかる商品は何ですか?
まずはひとつでいいので、商品の支持率を出してみてください。
計算方法は、電卓や携帯電話の電卓機能を使って、または暗算でも出せます。
ある商品の売れた数÷来店客数×100(%)
この%が一番大きいものが、一番支持率の高い商品です。
7. システムを使いこなす → 現場の問いを先に決める
いまはPOS、表計算、注文データ、会員アプリ、AIによる分析など、使える道具が増えました。機器を導入する前に「何を確かめ、どの行動を変えるか」を決めましょう。
トライアル西友 花小金井店の「Skip Cart」は、買物の負担を減らしながら、購買履歴をもとに商品を提案する仕組みを持っています[資料1]。ただ、どんな大きな仕組みも、商品が選ばれた理由まで自動的に教えてはくれません。
小さな店なら、日付、客数、SKU別販売点数、売価、粗利益、欠品、廃棄を一枚の表にまとめるだけでも始められます。スタッフが気づいた「今日はなぜ売れたか」を一行添えれば、数字は会話になります。
個人の購買履歴を扱う場合は、利用目的を明らかにし、必要な範囲で扱います。信頼を損なってまで、数字を集めることはありません。
